フリーランスとして活動するデザイナーにとって、「自分の時給はいくらが妥当なのか?」という問いは常に頭を悩ませるものです。高すぎれば案件を逃す可能性があり、低すぎれば自身のスキルや労働が不当に評価されてしまうリスクがあります。
会社員として副業を始めるデザイナー、これからフリーランスを目指す非デザイナー、そして現役で活躍するフリーランスデザイナーまで、それぞれの状況によって適切な時給の考え方は異なります。本記事では、あなたの現状に応じた時給設定のヒントと、自分を安売りしないための市場価値の明確化について解説します。
1. なぜ「妥当な時給」を知る必要があるのか?
フリーランスにとって、時給(あるいはプロジェクト単価)は収入に直結するだけでなく、自身の市場価値を示す重要な指標です。適切な時給を設定できれば、納得のいく報酬を得ながら、自身のスキルを正当に評価してもらえる可能性が高まります。逆に、相場を大きく外れた設定をしてしまうと、以下のような問題が生じやすくなります。
- 高すぎる場合: クライアントから予算オーバーと判断され、案件獲得の機会を失いやすくなります。特に実績が少ないうちは、敬遠される原因にもなりかねません。
- 低すぎる場合: 自身のスキルや労力が過小評価され、安価に買い叩かれてしまうリスクがあります。結果としてモチベーションの低下や、自身のビジネスの継続が困難になる可能性もあります。
自分を安売りせず、かつ確実に案件を獲得するためには、自身の現在の立ち位置と市場相場を正確に把握することが不可欠なのです。
2. 【状況別】フリーランスデザイナーの時給相場と設定のポイント
ここでは、デザイナーとしての経験や現在の働き方によって異なる時給の目安と、設定の際のポイントを解説します。
2-1. 【未経験・駆け出し】まずは実績作りを優先する期間
対象者: これからデザイナーとして案件を獲得したい非デザイナー、デザイン学習中の学生など
時給相場の目安: 1,000円未満〜
設定のポイント: 未経験の方がいきなり高単価の案件を獲得するのは、残念ながら非常に難しいのが現実です。この段階で最も重要なのは、**「実績を作る」**こと。たとえ時給1,000円未満であっても、まずはポートフォリオに掲載できる実案件を経験し、クライアントとのやり取りや納品までのフローを学ぶことに重点を置きましょう。
- クラウドソーシングの活用: 最初は単価が低くても、クラウドソーシングサイトで案件を受注し、実績を積み重ねましょう。
- 知人・友人からの案件: 身近な人からの依頼で、実績作りと経験を積むのも有効です。この場合も、プロとして責任を持って取り組みましょう。
- 成果物へのこだわり: 単価が低くても、手を抜かず、ポートフォリオに堂々と載せられるクオリティの成果物を生み出すことを意識してください。これが次のステップにつながる資産となります。
💡アドバイス: 最初から高時給に固執せず、将来的な単価アップのための「投資」と捉え、まずは実務経験を積むことに集中しましょう。
2-2. 【会社員デザイナー(副業)】即戦力として期待される立ち位置
対象者: 会社員として働きながら、副業でデザイン案件を受注したいデザイナー
時給相場の目安: 2,000円〜4,000円(税抜)
設定のポイント: 会社員としてデザイン経験があるあなたは、フリーランスのクライアントから見れば「即戦力」として期待されます。既に実務経験があり、一定以上のスキルと実績が期待できるため、未経験者とは一線を画した単価設定が可能です。しかし、副業であるため、時間の制約があることをクライアントも理解しています。
- 確実なアウトプット: 会社の業務と並行しての作業になるため、限られた時間の中でクライアントの期待を超えるアウトプットを安定して提供できるかが重要です。
- 迅速なコミュニケーション: スケジュールの調整や進捗報告など、クライアントとの密なコミュニケーションは必須です。返信の早さや丁寧さが信頼につながります。
- 得意分野を明確に: 普段の業務で培った得意分野やスキル(UI/UXデザイン、ブランディング、DTPなど)を明確にアピールし、専門性を活かした高単価案件を狙いましょう。
- CDOクラスの高度な職位の場合: 会社のデザイン組織を牽引するような高度な職位にある方であれば、その希少なスキルと経験は非常に高く評価されます。副業であっても、**5,000円〜10,000円(税抜)**といった高単価を十分に狙えるでしょう。デザイン戦略の立案や組織作りといったコンサルティング要素が加わるため、その価値は計り知れません。
💡アドバイス: 本業で培ったスキルを最大限に活かしつつ、副業であることをクライアントにしっかり伝え、スケジュール管理を徹底することで、信頼を得て継続的な案件につなげられます。
2-3. 【現役フリーランスデザイナー】自身の価値を最大化する段階
対象者: 専業でフリーランスとして活動しているデザイナー
時給相場の目安: 最低3,000円(税抜)〜、アベレージ4,000円〜5,000円(税抜)
設定のポイント: フリーランスとして独立しているあなたは、自身のスキルと経験が直接収入に結びつくため、より戦略的な時給設定が求められます。最低でも自身の生活費や経費を賄える単価を確保しつつ、スキルアップや実績に応じて積極的に高単価を目指していくべきです。
- 自身のコストを把握: 収入から税金、社会保険料、ソフトウェア代、光熱費、家賃などの経費を差し引くと、実際に手元に残る金額は想像以上に少なくなります。まずは月間の必要経費を把握し、そこから逆算して最低限必要な時給を算出しましょう。
- 経験とスキルの価値: 独立年数、これまで手掛けたプロジェクトの規模、業界での実績、特定のツールスキルなど、自身の持つ「価値」を具体的に提示できるようにしましょう。
- ポートフォリオの充実: 質の高いポートフォリオは、あなたのスキルと実績をクライアントに伝える最強のツールです。常に最新の代表作を掲載し、自身の強みをアピールしましょう。
- 企業の規模とニーズ: デザイナーが社内にいない中小企業やスタートアップなどでは、「一人目のデザイナー」として入るチャンスがあります。このようなケースでは、デザイン全般を任される役割になるため、より高値での交渉が可能です。戦略立案から実行まで、幅広い業務に対応できることをアピールしましょう。
- 継続的な学習: デザイン業界のトレンドは常に変化します。新しい技術やツール、デザイン手法などを積極的に学び、自身の市場価値を高め続ける努力が必要です。
💡アドバイス: 単に時給を上げるだけでなく、プロジェクト単価制への移行や顧問契約など、働き方そのものを見直すことで、より安定した高収入を目指すことも可能です。
3. 【スキル・年数別】フリーランスデザイナーの時給相場早見表
あなたのスキルレベルや経験年数によって、時給の目安は大きく変わります。以下の表を参考に、ご自身の現在地を確認し、目標設定の参考にしてください。
スキルレベル/経験年数 | 時給の目安(税抜) | 特徴とポイント |
---|---|---|
駆け出し・未経験 | 〜1,500円 | まずは実績作りと経験が最優先。クラウドソーシングや知人からの案件で、実務の流れを学ぶ。単価よりも質を意識したポートフォリオ作成に注力。 |
初級(1〜3年未満) | 1,500円〜3,000円 | デザインツールの基本操作や制作フローを理解し、簡単なデザイン案件をこなせるレベル。指示された内容を正確に形にできるかが重要。ポートフォリオを充実させ、得意分野を見つける時期。 |
中級(3〜5年未満) | 3,000円〜5,000円 | クライアントの要望を理解し、デザインで課題解決ができるレベル。提案力やディレクション能力も求められる。専門性を高め、特定の分野での強みを確立することで単価アップが可能。 |
上級(5年以上) | 5,000円〜8,000円 | デザイン戦略の立案から実行まで一貫して手掛けられる。大規模プロジェクトや複雑な案件も対応可能。チームマネジメントや教育など、デザイン業務以外にも価値を提供できる。 |
プロフェッショナル(特定領域の専門家、CDOクラス) | 8,000円〜15,000円超 | 業界のトップランナーとして、特定のデザイン領域(UI/UX、ブランディング、デザインシステムなど)で圧倒的な専門性を持つ。デザイン経営や組織構築など、ビジネス全体に貢献できる。顧問契約やコンサルティング案件も視野に。 |
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※上記の金額はあくまで目安であり、案件内容、クライアントの規模、地域、自身の交渉力によって変動します。
4. 自分を安売りせず、高単価案件を獲得するための交渉術
時給の目安を把握したら、次は実際に交渉するフェーズです。ただ高い時給を提示するだけでは、クライアントに断られてしまう可能性もあります。自身の価値を正しく伝え、納得のいく単価で契約を結ぶための交渉術を身につけましょう。
4-1. 自分の「価値」を明確にする
- 実績の可視化: ポートフォリオはあなたの実績を証明する最強のツールです。単なる作品集ではなく、**「どのような課題に対し、どのようなデザインで、どのような成果(売上UP、認知度向上など)を出したのか」**を具体的に記載しましょう。
- スキルの棚卸し: デザインツール(Photoshop, Illustrator, Figma, Adobe XDなど)の熟練度、UI/UXデザイン、ブランディング、コーディング、イラストレーションなど、自分が提供できるスキルを全て洗い出し、強みとしてアピールしましょう。
- 専門性の提示: 特定の業界に特化したデザイン経験(SaaS、医療、教育など)や、特定のジャンル(Webサイト、LP、アプリ、DTPなど)での実績があれば、それがあなたの「専門性」として価値を高めます。
4-2. 提案時のコミュニケーション術
- 事前ヒアリングの徹底: クライアントの要望や課題、予算感を事前にしっかりとヒアリングしましょう。これにより、クライアントの期待値を把握し、それに見合った提案ができます。
- 「できること」と「できないこと」を明確に: 自身のスキルで対応可能な範囲と、そうでない範囲を正直に伝えましょう。無理な受注は、後々のトラブルや信頼失墜につながります。
- 根拠に基づいた価格提示: 「なぜこの時給なのか」を説明できるように準備しましょう。自身のスキルレベル、経験、過去の実績、想定される作業工数などを具体的に示し、価格に納得してもらうための根拠とします。
- 付加価値の提示: 単にデザインを提供するだけでなく、「デザインによってクライアントのビジネスにどのような貢献ができるか」という視点で付加価値を提案しましょう。例えば、SEOを意識したWebデザイン、ユーザー行動を促すUI設計などです。
- 交渉の余地を残す: 最初から最低限の金額を提示するのではなく、少し高めの金額を提示し、交渉の余地を残しておくことも戦略の一つです。
4-3. プロジェクト単価での交渉も視野に入れる
時給制は時間の制約がある場合や、タスクベースの依頼には適していますが、プロジェクト全体の価値を考慮した場合、プロジェクト単価での交渉も有効です。特に経験を積んだフリーランスであれば、最終成果物の価値で報酬を設定することで、より高額な収入を得られる可能性があります。クライアントにとっても、全体の費用が明確になるメリットがあります。
5. まとめ:自分らしい働き方で、適正な報酬を得るために
フリーランスデザイナーの時給相場は、あなたのスキル、経験、提供できる価値、そして現在の状況によって大きく変動します。
- 未経験者はまず実績作りを最優先し、ポートフォリオを充実させる期間と捉えましょう。
- 会社員デザイナーの副業では、即戦力としてのスキルとコミュニケーション能力が重要。高単価を狙えるチャンスもあります。
- 現役フリーランスデザイナーは、自身のコストを把握し、経験と専門性を最大限に活かして高単価を目指しましょう。
最も大切なのは、「自分の市場価値を正しく認識し、それをクライアントに明確に伝えること」です。自分を安売りせず、かといって過大評価することもなく、根拠に基づいた適正な報酬を提示することで、クライアントとの信頼関係を築き、継続的な案件獲得につなげることができます。
今回ご紹介した時給相場や交渉術を参考に、ぜひあなたらしいフリーランスの働き方で、納得のいく収入とキャリアを築いていってください。