「会社を辞めたら健康保険や年金ってどうなるの?」「自分で全部やらなきゃいけないの?」
フリーランスになったばかりの人が必ず直面する、そして多くの人が不安を感じるのが、社会保険の自己管理です。会社員時代は当たり前のように会社が手続きしてくれていた健康保険や年金も、フリーランスになれば全て自分で選択し、手配し、支払いをしていく必要があります。
健康保険と年金は、もしもの病気や怪我、そして老後の生活を支えるための、まさに最後のセーフティネットです。これらの選択肢を知らないまま放置してしまうと、必要以上の保険料を支払ってしまったり、いざという時に十分な給付を受けられなかったり、将来の年金不足に苦しんだりといった、大きなリスクを抱えることになります。
この記事では、フリーランスが加入できる健康保険と年金の種類を徹底解説し、それぞれのメリット・デメリットを深掘りします。さらに、具体的な手続き方法から、賢い選択のための判断基準、そして意外と見落としがちな注意点や節税のヒントまで、フリーランスが社会保険で困らないための情報を網羅的にご紹介します。
なぜフリーランスは社会保険を自分で管理する必要があるのか?
会社員からフリーランスへの転身は、働き方の自由を手に入れる大きな一歩です。
しかし、同時に「会社の社会保険」という恩恵を失うことでもあります。会社員の場合、健康保険や厚生年金の保険料は会社と折半で、給与から天引きされるため、意識することはほとんどありません。
フリーランスは「個人事業主」として、これらの社会保障制度に自ら加入し、保険料を全額自己負担しなければなりません。
- 病気や怪我のリスクに備えるため: フリーランスは体資本です。病気や怪我で仕事ができなくなると、収入が途絶えてしまいます。健康保険は、医療費の自己負担を軽減し、経済的なリスクからあなたを守ります。
- 老後の生活を保障するため: 国民年金は、老後に受け取れる基礎年金を提供する制度です。将来の生活資金を確保するためにも、適切な年金制度への加入は不可欠です。
- 税金との関係: 社会保険料は、所得税や住民税の計算において「社会保険料控除」の対象となります。適切な制度を選択し、きちんと支払うことで、節税効果も期待できます。
- 信用力の確保: 社会保険への加入は、社会的な信用にもつながります。住宅ローンや各種ローンの審査において、社会保険の加入状況が問われることもあります。
これらの理由から、フリーランスにとって社会保険の理解と適切な管理は、事業を安定させるための基盤ともいえるのです。
フリーランスが加入できる健康保険の選択肢と深掘り
フリーランスが加入できる健康保険は、主に「国民健康保険(国保)」と「国民健康保険組合(国保組合)」の2種類です。それぞれの特徴を詳しく見ていきましょう。
2.1. 国民健康保険 (国保) の特徴と注意点
会社を退職したフリーランスが最も一般的な選択肢として選ぶのが、お住まいの市区町村が運営する国民健康保険(国保)です。
国保の仕組みと保険料の計算方法
国保の保険料は、前年の所得や世帯人数、市区町村によって異なります。一般的には、以下の要素を組み合わせて計算されます。
- 所得割: 前年の所得に応じて計算される部分。所得が高いほど保険料も高くなります。
- 均等割: 加入者1人あたりにかかる定額の部分。世帯人数が多いほど高くなります。
- 平等割: 1世帯あたりにかかる定額の部分。
- 資産割: 固定資産税額に応じて計算される部分(一部の自治体のみ)。
これらの合算額が年間保険料となり、通常は10回~12回に分けて納付します。
メリット
- 加入のしやすさ: 日本国内に住民票がある20歳以上60歳未満の全ての人が加入できます。会社員時代の健康保険を脱退後、お住まいの市区町村役場で比較的簡単に手続きが可能です。
- 家族も一緒に加入できる: 扶養の概念がないため、所得のない配偶者や子どもも、家族として同じ国保に加入できます。家族分の保険料はかかりますが、会社員時代の「扶養」のように、所得制限を気にせずに加入できるのはメリットです。
- 自営業や無職でも加入できる安心感: どのような働き方であっても、健康保険に加入できるという安心感は大きいでしょう。
デメリット・注意点
- 保険料が前年の所得に大きく左右される: フリーランスにとって最大のデメリットの一つです。開業1年目は所得が少なくても、2年目以降は前年の所得が保険料に反映されるため、収入が増えれば増えるほど保険料も高額になります。特に、前職の退職金なども所得としてカウントされる場合があるため、注意が必要です。
- 傷病手当金や出産手当金などの給付が基本的にない: 会社員の健康保険(協会けんぽや健康保険組合)には、病気や怪我で仕事ができない場合に給付される「傷病手当金」や、出産時に給付される「出産手当金」がありますが、国民健康保険にはこれらの制度が基本的にありません。これは、フリーランスが病気や出産で休んだ際に収入が途絶える大きなリスクとなります。
- 地域によって保険料の差が大きい: 国保の保険料は、市区町村によって保険料率や計算方法が異なるため、住んでいる場所によってかなりの差が出ます。引っ越しを検討する際は、この点も考慮に入れると良いでしょう。
- 高額療養費制度は利用できる: 国保でも、医療費が高額になった場合に自己負担限度額を超えた分が払い戻される「高額療養費制度」は適用されます。これは大きな安心材料です。
2.2. 国民健康保険組合 (国保組合) のメリット・デメリット
一定の業種に従事する人のみが加入できるのが国民健康保険組合(国保組合)です。国保組合は、同業者が集まって設立した健康保険組合で、国保とは異なる独自の保険料体系や給付内容を持つことがあります。
代表的な国保組合の例
- 文芸美術国民健康保険組合: ライター、デザイナー、イラストレーター、漫画家、カメラマン、プログラマーなど、文芸・美術・著作活動を行うフリーランスが加入できます。
- 東京税理士国民健康保険組合: 税理士とその従業員が加入できます。
- 歯科医師国民健康保険組合: 歯科医師とその従業員が加入できます。
- その他: 建設、理美容、医師など、様々な業種ごとに存在します。
メリット
メリット
- 保険料が一律または定額なので、年収が多い人には有利: 国保組合の保険料は、所得に関わらず定額の場合や、所得にかかわらず一定の基準で算出される場合が多いです。そのため、年収が高いフリーランスにとっては、所得に比例して保険料が高くなる国保よりも、保険料を抑えられる可能性があります。
- 傷病手当金が出る組合もあり: 国保にはない傷病手当金や出産手当金を独自に設けている国保組合もあります。これは、フリーランスにとって非常に大きなメリットです。
- 保養施設の割引や健康診断などの福利厚生が手厚い場合も: 組合によっては、一般の健康保険組合と同様に、保養所の割引利用や人間ドック・健康診断の費用補助など、手厚い福利厚生を提供しているケースもあります。
- 扶養家族の保険料が安い場合がある: 組合によっては、扶養家族の保険料が非常に安価、または無料となるケースもあります。
デメリット
- 加入条件が厳しい(職種・実績の証明が必要): 職種が限定されるだけでなく、その職種での実務経験や収入実績の証明を求められることがほとんどです。開業したばかりでは加入が難しいケースもあります。
- 組合費が別途発生するケースあり: 保険料とは別に、組合運営のための「組合費」が毎月徴収される場合があります。
- 選択肢が限られる: 自分の職種に合った国保組合が存在しない場合は、加入できません。
- 途中で脱退しにくい: 加入後に職種を変更したり、事業を縮小したりした場合でも、すぐに脱退できない場合があります。
2.3. フリーランスにおすすめの健康保険はどっち?具体的な判断基準
国保と国保組合、どちらを選ぶべきかは、あなたの年収と職種、そして家族構成によって大きく変わります。
比較項目 | 国民健康保険 | 国民健康保険組合 |
---|---|---|
加入のしやすさ | ◎(誰でも加入可) | △(職種・実績に制限) |
保険料の仕組み | 所得比例(収入が多いと高額) | 多くが定額(高所得者向け) |
給付の充実度 | △(給付が少ない) | ◯(組合による、傷病手当金など) |
扶養家族の保険料 | 家族人数に応じてかかる | 組合による(無料・安価な場合あり) |
福利厚生 | △(高額療養費制度のみ) | ◯(組合による、保養所など) |
こんな人には国保がおすすめ
- 開業したばかりで年収がまだ少ない人: 初年度の所得が低い場合、国保の保険料は比較的安価に抑えられます。
- 特定の職種に該当しない人: 自分の職種に合う国保組合がない場合は、国保一択となります。
- 手続きの簡単さを重視する人: 役所での手続きは比較的スムーズです。
こんな人には国保組合がおすすめ
- 年収が多く、節約したい人: 所得が高いほど、定額制の国保組合の方が保険料を抑えられる可能性が高まります。
- 自分の職種に合った国保組合がある人: 加入条件を満たせるのであれば、検討する価値は大いにあります。
- 傷病手当金などの保障を手厚くしたい人: 国保にはない手当が魅力です。
- 家族の保険料を抑えたい人: 組合によっては家族の保険料が安くなるケースもあります。
ポイント: まずはご自身の職種で加入できる国保組合がないか確認し、それぞれの保険料を試算してみましょう。国保の保険料は各市区町村のウェブサイトでシミュレーションできる場合が多いです。
フリーランスの年金制度の選択肢と深掘り
フリーランスが加入できる年金制度は、大きく分けて「国民年金」と、それに上乗せする形で加入できる「付加年金」「国民年金基金」「iDeCo(個人型確定拠出年金)」などがあります。
3.1. 国民年金とは?義務と給付内容
日本国内に住む20歳以上60歳未満の全ての人が加入義務を持つのが国民年金です。会社員は「第2号被保険者」として厚生年金に加入し、その中に国民年金が含まれますが、フリーランスや自営業者は「第1号被保険者」として直接国民年金に加入し、保険料を支払います。
国民年金の給付内容
国民年金は、老後の生活を支える「老齢基礎年金」だけでなく、万が一の事態にも備える制度です。
- 老齢基礎年金: 原則として65歳から受け取れる年金です。保険料を20歳から60歳までの40年間(480ヶ月)すべて納付した場合、満額で月額約66,000円(2025年度時点)が支給されます。納付期間が短いと、その分年金額も少なくなります。
- 障害基礎年金: 病気や怪我によって一定以上の障害状態になった場合に支給される年金です。現役世代の生活を支える重要なセーフティネットとなります。
- 遺族基礎年金: 国民年金加入者が亡くなった場合に、残された子どもがいる配偶者や子どもに支給される年金です。
デメリットと注意点
- 年金額は会社員より少ない(厚生年金なし): 会社員は国民年金に加えて「厚生年金」にも加入しているため、老後に受け取れる年金額はフリーランスよりも多くなります。国民年金のみでは、老後の生活費をまかなうには不十分な場合が多いことを認識しておく必要があります。
- 滞納すると将来の受給資格を失うリスクあり: 国民年金保険料の納付は義務であり、滞納すると将来の年金受給額が減るだけでなく、受給資格期間(原則10年以上)を満たせず、全く年金がもらえなくなるリスクもあります。経済的に苦しい場合は、免除・猶予制度の利用を検討しましょう。
3.2. 上乗せできる年金制度の比較(付加年金・国民年金基金・iDeCo)
国民年金だけでは老後の生活が不安なフリーランスのために、公的年金に上乗せして将来の年金を増やすことができる制度があります。
3.2.1. 付加年金
国民年金保険料に月額400円を上乗せして納めることで、将来の老齢基礎年金に「200円 × 付加保険料納付月数」が加算される制度です。
メリット
- 安価で高コスパ: 月々400円という少額で、将来受け取れる年金額を増やせます。2年間受け取れば元が取れる計算になり、非常に費用対効果が高いのが特徴です。
- 手続きが簡単: 国民年金の納付書と一緒に申し込むことができます。
デメリット
- 国民年金基金との併用不可: 後述する国民年金基金に加入している場合は、付加年金には加入できません。
- 年金額の増加はわずか: 積み立て額が少ないため、大幅な年金アップにはつながりません。
3.2.2. 国民年金基金
国民年金に上乗せして、より手厚い年金を用意したい場合に利用できるのが国民年金基金です。国民年金基金は、複数の型(終身年金A型、確定年金I型など)の中から自分のライフプランに合わせて選択し、掛金を積み立てていきます。
メリット
- 将来の受給額を大きく増やせる: 付加年金よりも多額の掛金を拠出でき、老後に受け取れる年金額を大幅に増やせます。
- 掛金が全額社会保険料控除の対象: 支払った掛金は全額が社会保険料控除の対象となり、所得税や住民税の節税効果が期待できます。
- 公的年金制度の一環: 国民年金と同様に公的な制度であり、途中で運用が破綻するリスクは極めて低いと言えます。
デメリット
- 途中脱退不可、掛金変更に制限あり: 原則として一度加入すると途中で脱退することはできず、掛金の変更にも制限があります(年1回など)。長期的な視点で慎重に検討する必要があります。
- 付加年金との併用不可: 付加年金と国民年金基金は、どちらか一方しか加入できません。
- 受け取り開始まで解約できない: 原則として年金を受け取り始めるまで、積み立てた掛金を引き出すことはできません。
3.2.3. iDeCo (個人型確定拠出年金)
自分で選んだ金融商品で運用しながら老後資金を積み立てる制度がiDeCo(イデコ)です。掛金を拠出し、その資金を自分で選んだ投資信託や預金などで運用し、60歳以降に一時金または年金として受け取ります。
メリット
- 節税効果が非常に高い
- 掛金が全額所得控除: 支払った掛金は全額が所得控除の対象となり、所得税・住民税が軽減されます。所得が高い人ほど節税効果が大きくなります。
- 運用益が非課税: 運用によって得られた利益には税金がかかりません。通常、投資で得た利益には20.315%の税金がかかるため、この非課税メリットは非常に大きいです。
- 受け取り時にも税制優遇: 60歳以降に受け取る際も、公的年金等控除や退職所得控除の対象となり、税制上の優遇があります。
- 多様な運用商品を選べる: 自分のリスク許容度に合わせて、預金から投資信託まで様々な金融商品を選択できます。
- 自由な掛金設定: 月々の掛金は5,000円から、上限額(国民年金の第1号被保険者は月額68,000円)の範囲内で自由に設定・変更が可能です。
デメリット
- 原則60歳まで引き出し不可: 制度の目的が老後資金形成のため、原則として60歳になるまで引き出すことができません。緊急時にも引き出せないため、余裕資金で行うべきです。
- 元本割れのリスクあり: 運用商品によっては、元本割れのリスクがあります。投資に関する知識が多少なりとも必要となります。
- 口座管理手数料などのコストがかかる: 金融機関に支払う口座管理手数料などが毎月発生します。
- 自分で運用商品を選ぶ手間: 運用商品選びや、必要に応じてポートフォリオを見直す手間がかかります。
3.3. フリーランスにおすすめの年金制度は?具体的な判断基準
国民年金は必須ですが、上乗せ制度はあなたの節税ニーズ、リスク許容度、将来への考え方によって最適なものが異なります。
制度名 | 特徴 | メリット | デメリット |
---|---|---|---|
付加年金 | 月400円で年金額を上乗せ | 安価で高コスパ、元が取れやすい | 国民年金基金との併用不可、増額はわずか |
国民年金基金 | 公的年金の上乗せ制度 | 受給額UP+社会保険料控除あり | 途中脱退不可、掛金変更に制限あり、付加年金と併用不可 |
iDeCo | 自由な投資型年金(自分で運用) | 節税効果が非常に高い、運用益非課税 | 原則60歳まで引き出し不可、元本割れリスク、手数料 |
こんな人には付加年金がおすすめ
- とにかく手軽に年金を増やしたい人: 月々400円で始められ、確実なリターンが期待できます。
- 投資に抵抗がある人: 運用リスクがないため、安心して利用できます。
こんな人には国民年金基金がおすすめ
- 公的年金として確実に年金額を増やしたい人: 運用リスクを避けつつ、老後の受給額を増やしたい場合に適しています。
- 節税効果も欲しい人: 掛金が全額所得控除の対象となるため、節税メリットも大きいです。
- 運用に時間をかけたくない人: 自分で運用商品を選ぶ手間がありません。
こんな人にはiDeCoがおすすめ
- 節税効果を最大限に活用したい人: 所得が高いほど、掛金の所得控除と運用益の非課税メリットが大きくなります。
- 積極的に資産運用をしたい人: 自分で運用商品を選び、リスクを取りながらリターンを追求したい人に向いています。
- 60歳まで資金を使わない余裕がある人: 長期的な視点で老後資金を準備するのに最適です。
ポイント: 国民年金基金とiDeCoは、どちらも掛金が全額所得控除の対象となりますが、両方同時に加入することはできません(厳密には、iDeCoの掛金上限額が国民年金基金の掛金と合算して月額68,000円となる)。どちらか一方を選ぶか、付加年金との組み合わせを検討することになります。
健康保険・年金の加入手続きの流れと注意点
フリーランスになったら、健康保険と年金の手続きは迅速に行う必要があります。退職後、放置してしまうと無保険状態になったり、未納期間が発生したりするリスクがあります。
4.1. 健康保険の手続き方法
会社員を退職後、健康保険の手続きは原則として退職日の翌日から14日以内に行う必要があります。
国民健康保険の加入手続き
- 必要書類の準備:
- マイナンバーカード(またはマイナンバー通知カードと運転免許証などの身分証明書)
- 退職日が分かる書類(健康保険資格喪失証明書、離職票など)
- 印鑑(認印で可、自治体によっては不要)
- 手続き場所: お住まいの市区町村役場の国民健康保険担当窓口
- 手続きの流れ: 窓口で加入の旨を伝え、必要書類を提出し、申請書を記入します。後日、国民健康保険被保険者証(保険証)が郵送されます。
国民健康保険組合への加入手続き
国保組合への加入は、各組合によって手続き方法や必要書類が異なります。
- 各組合のウェブサイトで情報収集: 加入条件、必要書類、手続きの流れなどを確認します。
- 問い合わせ・資料請求: 不明な点があれば、直接組合に問い合わせてみましょう。
- 申請書類の提出: 条件を満たしていれば、必要書類を揃えて組合に直接申請します。審査がある場合もあります。
- 承認後、保険証の発行: 審査に通れば、組合から保険証が発行されます。
任意継続健康保険の検討(補足): 退職時に、会社員時代の健康保険を「任意継続」として最長2年間継続できる制度もあります。これは、会社が保険料を折半してくれなくなるため全額自己負担となりますが、退職直前の給与水準によっては、国保より保険料が安くなるケースや、傷病手当金などの給付が継続されるメリットがあります。任意継続を検討する場合は、退職する会社の人事・総務部に問い合わせてみましょう。
4.2. 年金の手続き方法
会社を退職すると、自動的に国民年金の「第1号被保険者」となります。
国民年金の手続き
- 自動で切り替わる: 会社員が退職すると、厚生年金の資格を喪失し、自動的に国民年金の第1号被保険者へと切り替わります。原則として、個人での特別な手続きは不要です。
- 納付書の送付: 後日、日本年金機構から国民年金保険料の納付書が自宅に郵送されてきます。
- 期限内の支払い: 納付書に記載された期限内に、コンビニエンスストア、金融機関、またはスマートフォン決済などで保険料を支払いましょう。口座振替も可能です。
上乗せ年金(基金・iDeCoなど)の申し込み方法
- 付加年金: 市区町村役場の国民年金担当窓口で申し込むことができます。国民年金保険料の納付書と一緒に支払います。
- 国民年金基金: 国民年金基金連合会のウェブサイトや、最寄りの国民年金基金の窓口で資料請求・申し込みが可能です。
- iDeCo: 証券会社や銀行などの金融機関を選んで口座を開設し、申し込み手続きを行います。どの金融機関を選ぶかによって、提供される運用商品や手数料が異なりますので、比較検討が重要です。
4.3. 忘れずに確認!免除・猶予制度の活用
フリーランスになったばかりで収入が安定しない場合や、一時的に所得が減少した場合には、国民年金保険料の免除・猶予制度を利用できる場合があります。
- 全額免除・半額免除: 所得に応じて保険料が全額または一部免除される制度です。
- 納付猶予: 50歳未満で、所得が少なく保険料の納付が困難な場合に、納付が猶予される制度です。
これらの制度を利用すれば、未納期間を作ることなく、将来の年金受給資格期間に算入されたり、老齢基礎年金の受給額に反映されたりするメリットがあります。最寄りの年金事務所または市区町村の国民年金窓口で相談してみましょう。
フリーランスの社会保険に関するよくある質問と落とし穴
ここからは、フリーランスが社会保険について抱きやすい疑問や、見落としがちな落とし穴について解説します。
5.1. 扶養家族がいる場合の考え方
フリーランスには「扶養」という概念がありません。そのため、会社員時代の健康保険の扶養に入っていた配偶者や子どもも、フリーランスが国保に加入する場合は、国保に加入し、その人数分の保険料も負担することになります。国保組合によっては、扶養家族の保険料が安くなるケースもあるため、比較検討が重要です。
年金については、配偶者が「第3号被保険者」(会社員である夫や妻の扶養に入っている配偶者)だった場合、フリーランスの配偶者も「第1号被保険者」となり、国民年金保険料を自身で納める必要があります。
5.2. 退職後の健康保険は任意継続か国保か?
退職後、健康保険の選択肢として「国民健康保険」の他に「任意継続健康保険」があります。これは、退職した会社の健康保険に、引き続き最大2年間加入できる制度です。
比較項目 | 任意継続健康保険 | 国民健康保険 |
---|---|---|
保険料 | 全額自己負担だが、退職時の給与水準によって上限あり | 前年の所得で決定、上限なし |
給付内容 | 会社員時代とほぼ同じ(傷病手当金など) | 基本的に医療費給付のみ(傷病手当金なし) |
加入期間 | 最長2年間 | 制限なし |
扶養家族 | 収入要件を満たせば扶養可能 | 扶養の概念なし、家族人数で保険料増 |
判断基準
- 退職時の給与が高かった人: 任意継続の保険料は、退職時の標準報酬月額を基に計算されるため、高所得者ほど国保より安くなる場合があります。
- 傷病手当金などの保障を重視する人: 任意継続であれば、会社員時代と同等の手当が受けられる可能性があります。
- 扶養家族が多い人: 任意継続であれば扶養家族の保険料負担がないため、家族が多い場合は有利になることがあります。
ただし、任意継続は2年間という期限があるため、その後は国保か国保組合に切り替えることになります。退職前に会社の担当者に相談し、任意継続した場合の保険料を試算してもらい、国保の保険料と比較検討することが重要です。
5.3. 保険料・年金保険料の納付方法と節税
国民健康保険料も国民年金保険料も、納付方法によって節税効果や利便性が異なります。
- 口座振替: 最も確実で忘れにくい方法です。多くの自治体で対応しています。
- クレジットカード払い: 一部の自治体ではクレジットカード払いが可能です。ポイント還元があるため、お得に支払えます。ただし、手数料がかかる場合もあります。
- 電子決済(スマホアプリなど): PayPayやLINE Payなど、スマホアプリでの決済に対応している自治体もあります。
- コンビニエンスストア払い: 納付書を持ってコンビニエンスストアで支払う方法です。
そして、最も重要なのが社会保険料控除です。
- 国民健康保険料、国民年金保険料、国民年金基金の掛金、iDeCoの掛金は、支払った金額の全額が所得税・住民税の社会保険料控除の対象となります。
確定申告の際には、これらの支払額を忘れずに申告し、税金が安くなるように手続きしましょう。国民年金保険料については、毎年11月上旬に日本年金機構から「社会保険料(国民年金保険料)控除証明書」が送付されますので、大切に保管してください。
5.4. フリーランスの「厚生年金」問題
会社員は国民年金と厚生年金の両方に加入しているため、フリーランスになると厚生年金がなくなることに不安を感じる人も多いでしょう。現状、個人事業主であるフリーランスが「厚生年金」に加入することはできません。
しかし、前述の「国民年金基金」や「iDeCo」は、厚生年金の不足を補うための強力なツールとなります。これらの制度を積極的に活用し、将来の年金不足に備えることが重要です。
また、フリーランスとして法人化(会社設立)をすれば、代表者として厚生年金に加入することが可能になります。事業規模が大きくなり、法人化を検討する段階になったら、社会保険の面からもメリット・デメリットを比較してみましょう。
まとめ|保険と年金は「選ばない」と損をする
フリーランスになったら、健康保険と年金は「自分で選ぶ」ことが必須です。そして、漫然と選ぶのではなく、ご自身の年収、職種、ライフスタイル、そして将来設計に応じたベストな選択をすることが求められます。
この記事で解説した通り、それぞれの制度には明確なメリットとデメリットがあります。
健康保険
- 年収が少ない人、または職種に制限がなく手続きの簡単さを求めるなら「国民健康保険」。
- 年収が多く、特定の職種で加入条件を満たせるなら「国民健康保険組合」を検討し、保険料や給付内容を比較。
- 退職直後なら「任意継続健康保険」も選択肢の一つ。
年金
- 義務である「国民年金」への加入は当然。
- 上乗せとして、手軽に確実なリターンを求めるなら「付加年金」。
- 公的な制度で確実に年金を増やし、節税もしたいなら「国民年金基金」。
- 節税メリットを最大限に活用し、積極的に資産運用もしたいなら「iDeCo」。
まずは、ご自身の現状と照らし合わせ、それぞれの選択肢の保険料や掛金を具体的に試算してみましょう。そして、疑問点があれば、市区町村の担当窓口や年金事務所、または税理士などの専門家に相談することを強くおすすめします。
社会保険は、フリーランスとして長く活躍していくための土台です。この記事が、あなたの社会保険に関する不安を解消し、賢い選択をするための一助となれば幸いです。